研究概要 |
産卵期のアユの筋肉のテクスチャーは,成長期のものと比べて顕著に劣化する。これまでの研究からこの原因は筋内膜コラーゲンの酵素的分解による可能性が示唆されていたが,その原因酵素については全く不明であった。そこで本研究においては、その同定を試みた。 まず初年度には、滋賀県水産試験場で養殖された成長期および産卵期のアユ筋肉から、DEAE-セルロースあるいはCM-セルロースを用いたイオン交換クロマトグラフィーとこれらに引き続くアユI型コラーゲンを用いたゼラチンアフィニティークロマトグラフィーにより酵素の精製を試みた。その結果、CM-セルロース吸着画分には産卵期筋肉においてのみ約70kDaの活性が検出された。この活性はロイペプチンと1,10-フェナントロリンで阻害されたことから、等しい分子量を持つセリン型とメタロ型のプロテアーゼが、CM-セルロースクロマトグラフィーにおいて同一の挙動を示したものと推測された。そこで、この画分をゼラチンアフィニティークロマトグラフィーに供したところ、非吸着画分に70kDaのセリン型の活性が、一方、吸着画分に68kDaと62kDaのメタロ型の活性が検出された。この結果は、先に報告した産卵期のアユ筋肉に誘導される60-70kDaの活性は、ゼラチン親和性の異なるセリン型とメタロ型のプロテアーゼから構成されていることを示唆するものであった。 次年度においては,これらの酵素について性熟度と活性レベルの相関性を知るため,九頭川より採取した生殖腺指数の異なる雌雄アユ(雄,4.5〜8.8;雌,3.4〜14.3)筋肉抽出液のゼラチン分解活性をザイモグラフィー法により調べた。その結果、雄では生殖腺指数が4.7および6.0の個体において,また雌では11.1と14.3の個体において68kDaおよび62kDaの活性バンドが強く誘導されていた。これらの結果は昨年度,養殖アユの筋肉から精製されたコラーゲン分解に関わると考えられる酵素が,天然アユにおいても産卵期の特定の成熟段階において発現していることを示唆していた。
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