先に、RT-PCRによって1個体のコイから5種の補体第3成分(C3)をコードするcDNA断片を単離した。本研究は、コイにおけるC3の多様性を遺伝子レベルで詳細に検討するために、上記5種のC3アイソフォームについて、まず、完全長cDNAクローン(C3-H1、C3-H2、C3-S、C3-Q1、およびC3-Q3)を単離した。興味深いことに、これまでC3の機能には必須であると考えられていたチオエステル触媒性His残基が、C3-SではSerに、C3-Q1・C3-Q2ではGlnに置換していた。さらに、C3-Q2には大きな欠失が認められ、チオエステル部位の必須Cysにもアミノ酸置換があった。したがって、C3-Q2は正常なC3タンパクを与えない偽遺伝子である可能性が高い。これらのcDNAをプローブとしてサザンブロッティングによる遺伝子解析を行なった結果、上記5種のC3アイソフォームは対立遺伝子(アロタイプ)ではなく、別々の遺伝子によってコードされている(アイソタイプ)ことが示唆された。また、各遺伝子ともに、著しい多型性を示した。さらに、各C3アイソフォームの、コイ血清からの単離を試みたところ、5種(C3-1〜C3-5)のアイソフォームが得られた。各アイソフォームともに、^<14>C-メチルアミン結合試験によって、チオエステル結合を保持したnativeなC3であることが確認された。α鎖およびβ鎖のN末端アミノ酸配列の比較から、C3-1はC3-Sアイソタイプ、C3-2はC3-H1アイソタイプと同定され、触媒性Hisを欠くC3が実際にタンパク質として発現していることが初めて明らかになった。さらに、溶血反応試験によって、触媒性Hisを欠くC3-1が、それを備えたC3-2よりも遥かに高い溶血活性を示すことが判明した。以上の結果から、コイにおける機能の異なる多様なC3を遺伝子レベルで同定することが可能となった。
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