3年計画の初年度にあたる本年度は日本の食品流通業の効率性に関する分析を行った。 第一に、既往の流通マージン率に関する数量分析論文のサーベイを行い、1980年代までのデータに関して、(1)日本の流通マージン率はアメリカのそれと比較して低い水準にある、(2)したがって、通説となっている「日本の流通業は非効率である」という見解は必ずしも支持されない、(3)ただし、時系列的には日本の流通マージン率は上昇傾向にある、という整理を行った。 第二に、1990年代のデータを用いて、日本の近年の動向を検討した。その結果、上記の(2)は1990年代においても引き続き継続していることを確認した。また、同様のことは食品業についても当てはまることが確認された。 第三に、しかしながら、定性的な分析により、以下に示す考察を行った。まず、流通マージン=流通費+流通利潤、流通マージン率=流通マージン/消費者価格、であることから、消費者価格の大小に関係しない一定の流通費が存在するならば、消費者価格が高くなれば流通マージン率は小さくなる傾向が出てくることを指摘した。したがって、流通マージン率の小さいことをもって効率的であるとは言えない。消費者価格が高いためにこのような現象が生じているかもしれないからである。 第四に、以上の考察を踏まえ、流通業の投入構造を分析し、流通のしめる比率が時系列的にどのような変遷をとげてきたかを分析した。その結果、この比率が増加していることが観察された。また、運賃、包装資材費、貯蔵費などの比率も増加する傾向にあった。 第五に、以上から、大規模小売店舗法の規制緩和は消費者価格の低下を誘発し、流通マージン率を高める結果となったのではないかという結論に達した。
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