本研究の目的は、従来にない測定手段である携帯情報機器を使った作業時間の調査手法を開発することにある。平成10年度の当初計画では、(1)特定の作目を有する複数(できれば大量観察ができる戸数)の農家を対象にして携帯情報機器を用いた時間調査を試験的に実施すること、加えて、(2)作業日誌の記帳による従来方式の作業時間の把握を並行して行い、携帯情報機器を用いた作業時間調査方法と比較検討することの2点を課題としていた。 前者の課題については稲作を営む2戸の農家に対して、一定期間、携帯情報機器の一種である携帯型のボイスレコーダー(ICレコーダー)を用いた作業の記帳を依頼し、試験的な作業時間調査を実施した。試験に供したICレコーダーは、手のひらサイズで衣服のポケットに入れて持ち運びやすく、また、録音操作時に自動的に録音の時刻をメモリに記録する仕様のため、作業名と作業場所等を音声入力するだけで作業時間の記録ができる。ICレコーダーを用いることで農作業のように屋外での作業であって、しかもトラクター等の農業機械の運転中であっても、作業中の作業時間の自己記帳が正確にして簡便なかたちで可能であることが実証できた。 後者の課題については、3戸の農家に稲作の期間を通して作業日誌を記帳してもらい、さらに内2戸についてICレコーダーによる記帳を実施してもらい、作業日誌記帳では正確に分離し得ない移動時間などの作業要素の時間を記録できることが実証できた。ストップウォッチによる第三者の計時によらなくても、従来不正確にしか把握できなかった実作業率等をかなり推定できる方法であることが明らかになった。ただし、作業中の記帳(録音操作)のため遺漏が発生しやすく、作業日誌記帳に比べると一定の熟練がないと正確な記帳(記録)ができない難点も明らかになった。この対策としてICレコーダーによる時間記帳のための簡便なマニュアルを作成した。
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