本研究では、新しい時間測定および記録の手段である携帯情報機器を使った場合における農業労働時間の調査手法の開発を目指した。研究課題としては、第1に、複数の農業経営を対象にして実際の農作業の現場で携帯情報機器を用いた時間調査を試験的に実施し、実用性・適応性を確認した。第2に、作業日誌による従来の方法での作業時間の把握を並行して行い、携帯情報機器による調査方法と比較検討した。 試験に供した携帯情報機器のICレコーダー(携帯型のボイスレコーダー)は、手のひらサイズで衣服のポケットに入れて持ち運びやすく、また、録音操作時に自動的に録音の時刻をメモリに記録する仕様のため、作業名と作業場所等を音声入力するだけで作業の記録ができる。2戸の農家に対して、数日間、ICレコーダーを用いた作業の記録を依頼し、試験的な作業時間調査を実施した結果、ICレコーダーは、農作業のように屋外での作業であっても、作業中の時間の測定および関連情報の記録装置として十分な実用性をもっていたことがわかった。 上記の2戸の農家に対しては、稲作の期間を通して作業日誌を記帳してもらったうえで、記憶に頼る作業日誌の時間記録と、現場で入力するICレコーダーの時間記録とを比較検討した。作業場所と作業名を録音する限りでは、入力時間そのものは数秒が多く、測定誤差は概ね30秒以内に収まるとみなされる。作業日誌と同様に第三者の計時でなく自己記帳の方式であっても、作業日誌では正確に分離し得ない移動時間などの作業要素の時間の分離・識別が可能であり、自己記帳では従来把握できなかった実作業率等を高い精度(2桁の有効数字)で正確に推定できる方法であることが実証された。ただし、作業中の入力(録音操作)のため遺漏が発生しやすく、一定の熟練がないと正確な記録ができない難点も明らかになり、この対策として特別にマニュアルを作成した。
|