本研究の目的は、JAという協同組合を一つの社会システムと見立て、環境変化に伴うシステム変革の論理と方向を明確にすることである。この研究目的に対して、われわれが用意した理論モデルは「自己組織性」という社会理論である。 JAグループは、一方でプレモダンの社会(農業社会)をひきづりつつ、他方でモダンの社会(産業社会)への転換を要請されている。さらに足早におとずれるポストモダンの社会(情報社会)への対応も急がなくてはならない。こうした混沌とした状況、すなわち「ゆらぎ」のある状況がJAの新しい制度的枠組みと経営政策を求めている。 具体的には、(1)組合員の生活世界をあぶり出すこと、(2)情報社会の行くえを見定めること、(3)JAの組織文化のあり方をえぐり出すこと、(4)JAの特性発揮の条件を明らかにすること、(5)JA存続のための経営機構のあり方を明らかにすることを目的として、動機の社会学的理論、広域JAの構造・機能・意味、組織の情報過程とホロニック・マネジメント、取引費用の事業論への適用、ドメインの再構築、県単一の組織機構・財務・人事計画、バーチャル協同組合、アメニティコープなどの側面から検討を進めている。 結論を先取りすれば、プレモダンの社会では行政・集落・連合会依存のムラ型JAが、モダンの社会では自己責任原則のもとで徹底的に効率化・合理化された県単一JAが、ポストモダンの社会では差異化された個々人がつくるアメニティーコープが、それぞれ想定できるというものである。 これまでのJAをめぐる制度は、ほとんどが縛る制度であった。そういう中では本物の経営者は育たないから、素人の経営者を選ぶ組織が温存されてきた。近年における農協法改正は、それを縛らない自己責任の制度であるという点にすぐれた特徴がある。
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