本研究の狙いは、農村における難民問題に着目する観点から戦後の東西ドイツ農村と農業問題のあり様を比較史的に分析することにある。本年度は、とくに東ドイツ地域について、研究対象をメクレンブルク地方に定め、1998年88から9月にかけて現地で資料収集を行い、その解読に従事した。資料点数が相当数に上ったため分析は未だ道半ばの状況であるが、現時点で新たに判明したことは、以下の通りである。 (1)土地改革後の新農民については、従来「新農民」層は「土着の新農民」と「難民の新農民」と一括して議論されてきた、やはり経営的にも社会的にも異なるカテゴリーであること、(2)しかしメクレンブルクでは難民型の新農民は、新農民の半数をしめるほどの多さで(難民を主体とする新農民村落が相当数存在する)、ザクセン州やチューリンゲン州などの東南部地域とは異なり農村のマイノリティ問題という視角だけでは収まらない問題であったこと、(3)「難民の新農民」を中心に「新農民経営」の経営的脆弱性は明らかであり、特にとくに47年に関する史料の分析からは、種まき、収穫・脱穀作業において犂耕力の不足が決定的であること(とくに旧フォアポムメルン地域)、(3)その際に、注目すべきことは、郡当局および相互農民扶助組織の強力な主導によって、各村落内、さらには各村落間で、「相互農民扶助」 「家畜交換」の名の下にトラクター、馬、牛の配買と調整が力巧くで実施されていること、それが旧農民と新農民、とくに難民型の新農民とのあいだの対立に重なっていること(4)最後に、こうした犂耕力の問題は、トラクターや馬が同時に力でもあることによって林業問題(木材運搬力の調達)問題とも深い関わりがあったこと、以上の点が明らかになってきた。他方、農村難民たちのもう一つのあり方である農村の季節労働者としてのあり方は、とくに集団化過程との関わりで重要であるか、本年度は一次史料に基づく具体的分析を進めるには至らなかった。
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