本研究の狙いは、農村における難民問題に着目する観点から戦後の東西ドイツの農村と農業問題のあり様を比較史的に分析することにある。本年は、シュヴェリン州立文書館所蔵の1940年代後半期に関する行政文書を史料として、主にメクレンブルク地方における新農民問題、および農村難民問題について分析した。 まず、州知事情報局による各郡の農業情勢報告を、とくに経営資本と生産過程のあり様に着目しながら分析した結果、第一に、経営資本問題の中核は馬とトラクターの利用であり、それらがせめぎ合いの焦点にあったこと、第二に郡当局は、特に難民型新農民経営に強い利害関心をもち、馬とトラクターに関わって強烈な介入を行っていること、第三に新農民については経営困難および住宅不足から経営放棄が見られる一方で、不良経営として再接収される場合がかなりあり、その際彼らは農民下層民になること、他方では森林伐採による売り逃げをはかる新農民の存在が見られ、難民であるがゆえの定着志向の乏しさが問題化していたことなどが明らかとなった。 次に新農民自身の行動を知るために、「新農民に関する個別紛争事例」文書の分析を行った。これについてはまだ分析が途中であるが、第一に当局による土地接収に対する抗議が多くを占めること、第二に、その他に住宅にかかわる紛争、「ナチ積極活動家」規定に関わるもの、さらには悪しき村長の告発などがあり、それらからは村内の深い対立が見られることが明らかとなった。 最後に農村難民の実態を示すものとして、州社会省難民課文書から、Schwerin郡の難民の住居と雇用状態についての調査報告を見いだした。この文書からはにより旧住民と難民のあり方が、ほぼ一村単位に、しかも就業状態とも関わって具体的に判明する。これによれば、北部の場合には、南部と異なり難民の新農民集落が存在していること、しかしその場合も集落は難民新農民だけからなっているのではなく、少数派ながら旧住民も存在しており、また新農民でない難民も多く存在していることなどが明らかとなった。
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