本年度においてはエデュアルト・ハーン農業発展論の理論構造を体系的に解明するための準備作業として、専門的知識の提供を受けつつ、ハーン農業発展論にかかわる主要文献を九州大学及び岡山大学等の各附属図書館で探索・蒐集し、それら文献について整理を行った。 この準備作業の結果明らかとなったことは、ハーン農業発展論が(1)世界の農業形態の類型化、(2)これら農業諸形態の発展序列化、及び(3)文化複合論(文化人類学で用いられる概念)や宗教起源説の提唱の3側面から理解できるということである。すなわち、第1については、この点はハーンの研究の出発点であるが、農業地理学的に農業形態の分布地図を作成するために、世界の農業形態を狩猟・漁撈民、耨農耕、プランテーション、園耕、犂農耕及び遊牧の6類型に分類し、家畜の観点からそれらを描写したことであり、第2については経済活動の地理的差異を説明するために、これら農業諸形態を歴史関係と捉え、そしてこれらを採集民から耨農耕への展開、耨農耕から犁農耕及び園耕への発展、そして特定地域での遊牧の発達等として発展論的に序列化したことである。さらに第3については上述の耨農耕から犁農耕への展開、換言すれば、犁農耕が耨農耕起源であることの証明(この証明は当時支配的な理論であった経済発展3段階説に対する批判であり、ハーンの一大功績として高く評価される)に際して、犁農耕を物質文化の複合体と捉え、それを種々の要素(ウシの飼養・犁・穀物等)に分解して理解し、それらの起源をさかのぼって探求するが、その場合、各要素の発生因を宗教に求めたことである。 以上の3側面を骨子としてより詳細に正確にハーン農業発展論を整序するとともに、ハーン理論の意義・問題点の検討を通して、日本農法の性格規定に関説することが次年度の研究計画である。
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