日本農法の性格規定に大きく影響を与えた、だがわが国では体系的に理解されてこなかったドイツの農業地理学者・文化人類学者であるEd.ハーンの“農業発展論"は理論的に(1)農業形態類型化論、(2)農業形態発展序列化論、(3)文化複合・宗教起源説から成る。(1)は世界の農業形態を狩猟・漁撈民、耨農耕、栽植耕、園耕、犂農耕及び遊牧民の6類型に分類し、家畜の観点から描写したことである。(2)はこれら諸形態を歴史関係と捉え、そして採集民から褥農耕への展開、耨農耕から犂農耕及び園耕への発展等として発展論的に序列化したことである-この農業形態の世界的視野での類型化・発展序列化による各農業形態の位置の特定、それに基づく展開方向の明示という方法はわが国農法の在り方の検討に有益である-。この場合、ハーンによれば、日本農法は耨農耕から発展した園耕であり、西欧の犂農耕とは発展経路が異なる。しかし、園耕を耨農耕範疇に属するものと理解すれば、縛農耕範疇に含まれるわが国農法も犂農耕路線上での展開が可能になる。さらに(3)は耨農耕から犂農耕への展開、換言すれば、犂農耕が耨農耕起源であることの証明(3段階説批判)に際して、犂農耕を物質文化の複合体と捉え、それを種々の要素(牛の飼養や犂・穀物等)に分解して理解し、それらの起源を遡って探求するが、その場合、各要素の発生因を宗教に求めたことである。このように(2)の発展序列化、特に耨農耕から犂農耕への展開は(3)の文化複合・宗教起源説の提唱によって証明されるので、この両者は密接に関係している。従来、農業地理学的観点から(2)の側面の重要視、また宗教起源説に対する厳しい批判等のために、(3)の側面への関心は薄かったが、上述のようにわが国農法も犂農耕路線での展開が可能であるとすれば、宗教起源説という制約はあるとしても、文化複合・宗教起源説の中に耨農耕から犂農耕(有畜複合経営)への展開を明示する論理があるとも考えられる。
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