研究概要 |
1. 遠山郷の代表的な集落:下栗地区(下伊那郡上村)において気象観測,作付け品目・分布,適用技術,耕地土壌の流亡状況等の実態調査を行った.また,遠山郷全域を対象として,地域の土地利用,生業形態,人口動態の変遷に関する基礎資料の整備を進めた.加えて,遠山郷が他地域から孤立してきた状況を把握するため,近代以降の道路・交通網整備の発展過程の調査を並行して行った. 2. 下栗地区は標高1000m,山間谷あいという不利な立地条件であるが,南東斜面が多く,比較的温暖で年降水量も2000mm程度期待できる.この結果,気候的には多様な畑作農業を展開する条件に恵まれるが,短時間雨量強度も大きく,土壌浸食の危険性が大きいことが確認された. 3. 土壌流亡量実態を調査するために,作付品目の異なる数カ所の耕地において,土壌流亡量を実測した.同時に,耕地区画の形態,耕地土壌特性(粒径分布・団粒構造),作付方法,伝統的土壌保全技術(ヨセ)等の実状を,観察ならびに聞き取り調査した.現在,下栗地区においては近代的な基盤整備の適用も難しく,等高線に沿いの小区画傾斜畑で多品目な作物栽培が細々と続けられている.これらの伝統的な農法の中には,傾斜地保全に配慮する農耕技術も多々見られ,農業活動の継続が下栗地区の急傾斜地保全に大きく寄与していることを確認しつつある. 4. 遠山郷全域での水・土地利用と環境保全の関係を分析するために,地域の土地利用と生業の変遷,とくに森林資源の変遷を総合的に検討することが重要な課題である.今後,地理情報システム適用の可能性を検討し,遠山郷での水・土地利用が,流域環境保全に果たす役割を考察する予定である.
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