私は平成8年度までの研究で、組織付着性のLactobacillus菌株を選抜し、その中の1菌株Lactobacillus crispatus JCM 5810の付着因子が43kDaのS-layerタンパク質(CbsA)であることを明らかにしていた。 平成9年度はS-layerタンパク質遺伝子のクローニングし、S-layerタンパク質遺伝子(cbsA)は30残基のシグナルペプチドを含む440残基のアミノ酸をコードしていることが明らかにした。付着性を示さないLactobacillus acidophilus JCM 1132(=ATCC 4356)のS-layerタンパク質(slpA)との相同性を比較したところ、シグナルペプチドは1残基が異なるのみで完全に配列が一致した。C末端側も77%と相同性が高かったが、N末端側は30%と低く、付着に関与する配列(結合領域)はN末端側に存在すると推定した。 平成10年度はCbsAにDeletionやpoint mutationを挿入してHis-tag fusionタンパク質として発現させたCbsAおよびCbsAとSlpAのfusionタンパク質とCIVとの結合性を調べ、CIV結合領域はN末端側の1-287残基の広い配列が必要であることを明らかにした。さらに、Lb.crispatus JCM 5810およびCbsAは毒素原性大腸菌(ETEC)ATCC 31705が上皮下組織モデルとして用いたMatrigelや固定化ラミニンに付着するのを阻害した。 以上の研究により、菌体およびCbsAを利用して、病原菌の定着を阻害することによる腸管感染症の予防機能を有する発酵乳の開発の可能性を示すことができた。
|