研究概要 |
岩手県下のC農場において,出荷した牛乳が風味異常で廃棄処分されたため,個体検査を行なったところ,全泌乳牛の約10%(10頭前後)に風味異常乳が認められた.筆者らは,完全配合飼料(TMR)中の食塩含有量,異常牛の乳汁の風味,pH及びミネラル濃度の検査を行ったところ,食塩の過剰給与が判明し,塩味を主とした風味異常,乳牛のpHとNa及びCl濃度の高値,K濃度の低値,などを認めた.食塩給与量を調製した結果,以後風味異常乳の発生は終息した.食塩過剰摂取に伴う乳汁中NaCl濃度の上昇とK濃度の低下(Na/K比の付均衡)が風味異常の主因と考えられ,乳腺細胞でのNa-K・ATPase(Naポンプ)の関与が示唆された. 食塩給与状況を調査するため,岩手県下の飼養条件,個体条件(年齢,産次,乳期,など)の異なる農場の乳牛の乳汁中ミネラル(Na,K,Cl,Mg,Ca及びP)濃度,特にNa,K,Clの関係及び血清,尿のミネラル濃度について比較検討した.その結果,乳汁中のNa(X)とK(Y)の濃度間には負の高い相関(y=-1.6×+67,r=-0.882,P<0.001)が認められた.乳汁のNaとKの濃度のアンバランスによる風味異常は,食塩過剰摂取のみならず,長期空胎牛(350日以上搾乳)の乳汁にも認められたことから,乳腺細胞の機能低下によっても生ずることが示唆された. 乳汁のNaとK濃度(Na/K比)と乳腺細胞でのNa-K・ATPase活性及び風味異常との関係を調べるため,泌乳牛にNa-KATPase活性を特異的に低下させるウワバイン(ジギラノゲンC,藤沢薬品工業KK)を静脈注射し,乳汁のpH,風味,ミネラル濃度,Na/K濃度比を測定した結果,乳量には変化が認められなかったが,投与直後から風味異常が続き,pHの上昇,乳汁中NaとK濃度の間の高い負の相関(y=-0.89×+45,r=-0.514,P<0.001)が認められた.Na-K・ATPase活性の低下が風味異常の主因であることが示唆された.
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