研究概要 |
鳥類の卵黄膜は,外側から順に外層,連続膜,内層という3層の膜で構成されているが,排卵されたばかりの卵は内層だけに包まれている。内層に包まれた卵は体外で受精できるが,外層が付着した卵には精子は侵入できないことから,配偶子間の認識には卵黄膜内層が関与していると考えられている。このような認識機構を研究するためには,排卵直後の腹腔内の卵か,もしくは卵管漏斗部に取り込まれ外層が付着される前の卵を回収することが望ましい。しかし,排卵される時刻を正確に予想するのが難しいこと,また腹腔内に留まっている時間が10〜30分間と短いこと,さらに排卵が近づくと最大卵胞を包みこむように卵管漏斗部が移動することもあり,このような卵を回収することは非常に困難である。そこで本研究では,鳥類の受精の際の配偶子間の認識機構を解明するため,腹腔内の卵の卵黄膜内層に代わる膜として,最大卵胞および産卵された卵から卵黄膜内層を分離し,精子とインキュベーションすることによって膜に形成される孔を観察し,インキュベーションの諸条件について検討を加えた。最大卵胞の卵黄膜内層は,顆粒膜細胞を蒸留水中で破壊する方法によって分離した。産卵された卵の卵黄膜は10%NaClで洗浄することによって内層のタンパクを主成分とする膜とした。これらの膜を精子とインキュベーションして形成された孔を観察した結果,産卵された卵では孔の数は少ないが,最大卵胞の卵黄膜内層では精子の濃度依存的に孔が形成されることが明らかとなった。これら2種類の膜の構成タンパクを電気泳動で比較したところ,分子量33,000のタンパクの移動度が異なっており,これが精子との反応に何らかの役割を果たしていることが示唆された。以上の結果から,最大卵胞から分離した卵黄膜内層を用いて鳥類の配偶子間の認識機構を研究できることが明らかとなった。
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