豚精子のコールドショックを防止する効果が認められた炭素数が10-14の長鎖アルコールのうち、特に有効なラウリルアルコール(LAl)別名1-dodecanolを用いた家畜精子の低温保存技術開発を試みた。 LAlは高濃度では有害であり、その作用は精子濃度依存性である。また、各種油脂と組み合わせて使用することにより、単独利用の際に生じる害作用を軽減できた。精子濃度を4億/ml、希釈倍率が2倍の時、豚精子のコールドショック防止におけるLAlとオリーブオイルの至適濃度はそれぞれ0.02および0.4%であった。両者は超音波処理により直径が0.22ミクロン以上の微細な複合体を形成し希釈液中に分散し、油脂は原形質膜にLAlが過剰に移行するのを防ぐいわば緩衝材として作用しているものと考えられる。精子原形質膜の膜内タンパクの動態を凍結割断電子顕微鏡を用いて調べた結果、LAlには低温におけるタンパク粒子の凝集を防止する作用があることから、低温での細胞膜の流動性を維持することにより低温傷害を防止することが示唆された。 豚精子の5℃保存では、コールドショック防止に対する至適濃度1/8濃度のLAlとオリーブオイルで有効であり(希釈倍率4倍)、6日間まで保存した精液を40頭の雌豚に人工授精し、得られた受胎率(80%以上)と産子数(平均10.4頭)から、LAlを用いた液状保存法は十分実用に耐えうる技術であることが確認できた。 LAlの凍結精液への利用性を、豚を中心に牛、犬およびニホンジカにおいても検討した。卵黄を20%含む希釈液では、LAlの至適濃度は0.05%であり、いずれの動物種においても融解後の精子生存性、特に先体正常率を高める効果が認められた。LAlと40%トリエタノールアミンラウリルサルフェイトを1:9の割合で混合してから希釈液に添加することにより安定した効果が得られたことから、超音波処理を行うことなくLAlを希釈液に添加できることが明らかとなった。
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