本研究は新たに開発した競合PCRによる特定ルーメン菌のDNA定量法を利用することで、ルーメンへ移植した遺伝子組み換え菌の精度高い追跡をはかろうとするものである。以下のような成果が得られた。 1. 組み換え用ホスト菌株の16SrRNA遺伝子の特異領域を利用して、定量性の高い競合PCR系を確立した。定量下限は100-200菌細胞であった。 2. in vitro培養実験によると、新鮮ルーメン液に移植された組み換え体は、生菌数で追うと3時間以降急減するが、DNAで追うとやはり急減するものの少し減少が遅れる傾向があった。これは死菌由来のDNAも定量してしまうためと思われた。ルーメン混合菌のみの培養液に組み換え体を移植した場合、生菌数はやはり低下したが、DNAで追うと48時間目でも移植直後と同じレベルの組み換え体DNAが定量された。このことは、飼料粒子やプロトゾアを含まない洗浄ルーメン菌液中では死滅した組み換え体およびそのDNAの分解が極めて緩慢なことを示している。 3. 次に実際のヒツジのルーメン内へ大量の組み換え体を移植し、その経時的追跡を試みた(in vivo実験)ところ、組み換え体は、移植後急激にルーメン内密度を減らした。生菌数で追うと72時間目まで計数可能であったが、144時間目以降は検出できなくなった。競合PCR法でも、標的DNA領域の定量値の経時変化はほぼ同様であった。 4. 以上のことから、競合PCRによるDNAレベルでの組み換え体追跡は、実際のルーメン内でも十分に応用可能であり、死菌由来のDNAは迅速に分解されるため、大きな誤差要因にはならないことが示唆された。一方、組み換え体のルーメン内高密度定着には強い制限要因があり、今後それらを明らかにしていく必要があると思われた。
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