ラット精子のDNAの酸に対する安定性とチオールの酸化還元状態が精巣上体での成熟および卵子への精子侵入の間にどのように変化するのかを調べた。DNAの酸に対する安定性を調べるために、円形精子細胞および精子を酢酸アルコールによる固定後アクリジンオレンジで処理したところ、共焦点レーザー顕微鏡下での赤色/緑色蛍光比は、精子が精巣上体頭部に移行するまでに低下した。還元型チオールに結合して蛍光を発するmonobromobimane(mBBr)をラベルした場合、蛍光量は精子の精巣から精巣上体尾部への移行に伴い徐々に低下し、精巣上体尾部および射出精子では蛍光が観察されなかった。また、アクリジンオレンジの赤色/緑色蛍光比は、透明帯通過および膨化精子で高かった。さらに、囲卵腔の精子をmBBrでラベルしたところ蛍光が観察された。これらのことから、精子の精巣上体における成熟でDNAの酸に対する安定化はプロタミンの酸化に先行し、プロタミンの還元およびDNAの不安定化は精子が卵子透明帯を通過後にすでに始まっていることを示した。 精子侵入および前核形成に伴うラット卵子中のグルタチオンおよび関連するチオール類量の変化を高速液体クロマトグラフィーを用いて解析した。還元型グルタチオンは、未受精卵および膨化精子を有する受精卵で前核期受精卵と比較して高かった。酸化型グルタチオン量は、精子侵入および前核形成を通じて変化しなかった。還元型システニルグリシン量に精子侵入および前核形成による変動は認められなかったが、酸化型システニルグリシン量は精子頭部の膨化後、前核形成までに増加した。また、低量のシスチンは受精過程を通じて認められたが、システインおよびγ-グルタミルシステインは、検出されなかった。これらの結果から、ラット卵子でのグルタチオン量は、精子頭部の膨化と前核形成の間に減少することが明らかとなった。この減少はγ-グルタミルトランスペプチダーゼ活性の上昇によるものと推察される。
|