エストロジェン(E)による泌乳阻害の機構についてマウスを用いて追究した。泌乳3日目から10日間、日量1μgのE投与により乳子の発育は阻害された。実験最終日に母親と乳子を7時間強制離乳させ、そのまま屠殺する群と1時間再ほ乳させて屠殺する群を設けた。強制離乳後吸乳を行わないで屠殺した群の乳腺重量および乳腺分泌能の指標として測定した乳腺中のラクトース含量は、対照群に較べてE投与群は有意に減少した。1時間再ほ乳後の乳腺重量および乳腺ラクトース含量は、対照群とE投与群との間に差は認められなかった。このことによりE投与による秘乳阻害は、乳汁合成(量)の阻害を含むことが再確認された。 続いて栄養学的側面からE投与による秘乳阻害を調べるために、我々が確立した方法を用いて乳汁中の各種成分含有率の測定を行った。その結果、総固形分、タンパク質、脂肪、ラクトースおよび灰分の含有率は、いずれもE投与群と対照群との間には差は認められなかった。 秘乳6日目からE10μgを3日間または5日間投与し、投与最終日に母親と乳子を8時間離乳後1時間再ほ乳させ、再ほ乳期間の母親と乳子の行動を調べた。母親のほ育行動の指標としてほ育時間とクラウチング回数を、乳子の吸乳行動の指標としてストレッチング回数を観察したが、両群間に違いはなかった。また、再ほ乳後直ちに母親を屠殺し、乳腺中の核酸含量を測定した。E投与群の乳腺DNA含量は、3日間投与において対照群との間に差はなく、5日間投与において減少が認められた。乳腺RNA含量は、3日間投与および5日間投与ともに対照群に較べてE投与群は著しい減少が認められた。 これらの結果から、Eの泌乳阻害機構の少なくとも一部は、乳腺上皮細胞数の減少と乳汁分泌機能低下の両者に基づく乳量の減少であると解釈できる。
|