エストロジェン(E)による泌乳阻害の機構についてマウス及びラットを用いて追究した。結果は以下の通り。1.日量1μg、10日間のE投与は乳子の発育を阻害した。実験最終日の母親の乳腺重量と乳腺ラクトース含量を乳汁分泌機能の指標として測定した結果、E投与群のそれらは著しい減少を示した。2.泌乳期のE投与は、母親の哺育行動及び乳子の吸乳行動に影響を与えなかった。3.E投与による乳腺微細構造への影響について電子顕微鏡を用いて観察した結果、乳腺上皮細胞において、核の崩壊及び上皮細胞間結合の分離が認められ、筋上皮細胞の細胞膜の崩壊と筋繊維の分離も起こった。4.E投与によって起こる乳腺退行がアポトーシスか否かをアガロースゲル電気泳動法及びTUNEL法を用いて調べた。E投与4〜5日後にアポトーシスの指標であるDNAの断片化が両方法で認められた。しかしながら、投与10日後では、この指標は認められなくなった。5.E投与後の乳腺組織においてアポトーシス関連タンパク質とされるc-myc及びp53の発現を免疫組織化学法によって調べた。上記の結果と同様にc-mycの発現はE投与後4〜5日の乳腺上で観察されたが、投与後10日では観察されなくなった。これらの乳腺をHE染色した後、光学顕微鏡で観察すると、E投与後5日の乳腺は乳腺胞数の減少、腺胞中のミルクの減少、脂肪組織の浸潤が観察されるが、腺胞構造は維持されていた。一方、投与後10日の乳腺胞構造は、完全に崩壊した。このことから、Eによる乳腺退行の1部はアポトーシスによることが判明した。6.母親へ投与されたEは、乳汁を介して乳子に移行するため、Eによる乳子下垂体の成長ホルモン及びプロラクチン細胞の分化と増殖について下垂体細胞を培養し、免疫細胞化学的方法により検討した。その結果、Eはプロラクチン細胞の増殖を促進したが、成長ホルモン細胞増殖に影響を及ぼさなかった。
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