肝臓は旺盛な再生力を持ち、例えばラット肝臓を70%部分切除しても5日後にはほぼ元の大きさに戻るが、肝実質細胞とともに非実質細胞の再生が機能回復に重要である。この再生に関与する血管内皮細胞増殖因子(VEGF-A・VEGF-B・basicFGF)の発現について調べたところ、肝臓ではVECF-Aの発現が肝再生過程に伴って増加した。bFGFは微増したがVEGF-Bの発現は変化しなかった。VEGF-A発現の多い肺や心臓では変動は見られたが、増加することはなかった。脾臓では肝切除後12時間から増加する傾向がみられ、48時間目まで増加した。小腸では減少し、腎臓では術後24時間目に2倍程度に増加した。肺や脾臓のVEGF-Aには血中に移行しうるVEGF-Aのアイソフォームがみられた。VEGF-Bの発現は肝臓と腎臓において変化はなかった。しかし、肺臓、心臓、脾臓、小腸の各組織においては、VEGF-Bは肝切除群で増大した。 以上の結果より、肝非実質細胞の再生に肝臓でのVEGF-AとbFGFの発現に加え、肺や脾臓由来のVEGF-Aが関与することが示唆された。また、肺臓、心臓、脾臓、小腸においてはVEGF-Bの産生が著しく増加しており、他の報告からウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーターやプラスミノーゲンアクティベーターインヒビター-1の発現や活性を調節して肝非実質細胞の再生に寄与する可能性が示された。 これらの血管内皮細胞増殖因子の発現機構はまだ明らかではないが、褐色脂肪組織でのVEGF-AおよびbFGFの発現は交感神経の活性化を介して行われていることを明らかにした。肝再生時に交感神経系が活性化されることが知られており、肝再生中の血管内皮細胞増殖因子の発現が褐色脂肪組織同様に調節されていると考えられた。
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