申請者はこれまでに、ペスチウイルスの検出を高感度なネステッドPCR法により行うためのプロトコールを公表してきた。平成9年度は哺乳動物培養細胞を対象に、感染あるいは迷入しているペスチウイルスをネステッドPCR法により検出した。細胞培養上清からグアニジン・イソチオシアネート法により全RNAを抽出し、ペスチウイルスゲノムの5′非翻訳領域の下流に位置するプライマーを用いてcDNAのファーストストランドをM-MLV逆転写酵素により合成した。得られたcDNAを基質として、逆転写反応に用いたプライマーとその上流に位置するプライマーを用いて、1段目のPCRを行った。これにより陽性のサンプルからは約300bpのPCR産物が得られた。次いで、1段目のPCRプライマー対の内側に設定した内部プライマー対と1段目のPCR産物を用いて2段目のPCRを行った。低レベルの汚染の場合は1段目のPCRで陰性であっても、2段目には陽性となる場合が多く、また、2段目のPCRにより、1段目のPCRの特異性を確認することができるので、2段目のPCRは欠かすことができないステップである。2段目のPCRで陽性のものは約150bpのPCR産物が得られた。本法を用いて細胞系(セルライン)20株についてペスチウイルス汚染を調査した。その結果、1段目のPCRにより15株(75%)からペスティウイルスRNAが検出された。本来の自然宿主である偶蹄類由来の細胞系では7株中6株が陽性であった。また、検査した人由来細胞系5株のすべてと猿由来細胞系4株中2株、および食肉類の犬・猫由来細胞系各1株が陽性を示したのは予想外であった。齧歯類由来細胞系1株は陰性であった。2段目のPCRによっても検出率に変化はなかった。PCR産物はアガロースもしくはポリアクリルアミドのゲル電気泳動により分画し、トランスイルミネーターにより観察した。得られたPCR産物はダイデオキシ法によりその塩基配列を決定し、得られた塩基配列をClustalV等のプログラムにより解析して、ペスチウイルスの系統分類を行った。これらの成果は1997年8月の国際獣医ウイルス学会議(連合王国)において公表した。
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