昨年(平成9年)度は哺乳動物由来の細胞系(セルライン)20株を対象に、感染あるいは迷入しているペスチウイルスをネステッドPCR法により調査し、そのうちの15株(75%)が陽性であることを明らかにした。さらにそのPCR産物の塩基配列をダイデオキシ法により決定し、得られた塩基配列を近隣接合法あるいはUPGMA法等により解析して、ペスチウイルス属の分子系統樹を作成した。しかし、これらの解析はもっぱら5'端非翻訳領域の一次構造に基づく進化系統を推定したものであって、分類とは多少異なる概念に依拠している。ところで、この領域には複製あるいは遺伝子発現のための制御を司るための重要な塩基配列が含まれているといわれる。申請者のこれまでの調査により、この5'端非翻訳領域には少なくとも3箇の可変領域が存在し、それぞれの領域に特徴的なステム・ループからなる二次構造が想定されることが判明している。ループ領域の配列と長さはウイルス株により一定していないものの、ステム領域の配列はよく保存されており、本属ウイルス種はそれぞれ固有のステム構造を呈することから、可変領域に想定される二次構造のステム領域を比較することにより、ウイルス種の同定が可能である。そこで、今年(平成10年)度は昨年度に決定した塩基配列について、DNAデータベースに蓄えられている既知のペスチウイルスのものと比較するとともに、コンピュータを用いて二次構造の自由エネルギーを計算し、合理的なステム・ループ構造を推定した。その結果、3箇所の可変領域に想定される二次構造のステム領域における回文塩基置換(PNS)に基づきペスチウイルスが大きく4群に分けられた。すなわちこれまでウシウイルス性下痢ウイルスと呼ばれていたものが少なくとも2群に分けられ、また、ボーダー病ウイルスおよびブタコレラウイルスもそれぞれ独立のクラスターを形成することが判明した。その結果、ペスチウイルスを新しい基準により分類することが可能となった。これまで研究経緯と実験成績の詳細は別に研究成果報告書としてとりまとめた。
|