研究概要 |
鳥類の視覚器は脳の大きさに比し、非常に発達しており、機能的にも特に、視覚運動機能が優れている。しかしながら、これまで、鳥類の視覚に関係する構造はよく分かっていない。前年度までの結果、ヒヨコの網膜節細胞層にはおよそ490万個の細胞が存在し、その内、約80%が網膜節細胞と見積もられた。その分布密度はこれまで報告されたものとは異なり、陸上で生活するヒヨコにも、飛翔行動をするハトやタカと同様に高密度域が中心網膜(中心野)以外に、背側網膜(背側野)にも存在することが分かった。さらに、本年度の研究により、ヒヨコ胚では背側野は更にはっきりしており、発生が進むにつれて不明瞭になることが分かった(E11:28000個/mm^2、E14:25000個/mm^2、E17:19000個/mm^2、P8:12800個/mm^2)。陸上行動するウズラ胚でも背側野が存在すると予想される。ヒヨコ網膜の中心野における網膜節細胞を細胞内染色、DiI標識により細胞体の大きさと樹状突起の広がり方を調べたところ、大きく4グループに分かれ、さらにグループ1と2にはサブグループが区別された(Group 1c:51.8%,Group 1s:21.1%,gronp 2c:6.2%,Group 2s:14.6%,Group 3s:4.2%,Group 4c:2.1%)。形態学的にGroup 1cとgroup 4cは哺乳類のβタイプとαタイプにそれぞれ似ていた。γタイプにはGroup 3sが樹状突起の大きさ、分岐の仕方で最も似ていたが、Group 3sの細胞体は中型であった。これらの形態学的特徴から鳥類でも中心野は形態視に適した構造を示すほか、周辺視野に適した網膜節細胞と類似のものが存在することが分かった。網膜節細胞の生理学的特性はまだ不明だが、このことは鳥類特有の視覚運動機能と関係するものと思われる。この他、リズムに関係するメラトニンが松果体の存在することは知られているが、網膜にもメラトニン、ドーパミンが存在し、リズム形成に関与し、一方、網膜と同様の視物質が松果体にも存在していることが明らかになった。
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