研究概要 |
悪性線維性組織球腫(MFH)には、多分化能を有する未分化間葉系細胞(間葉系始祖細胞)が混在し、その結果、MFHは多彩な組織像を現すことをこれまで明らかにしてきた。本年度においては、MFH細胞と他の間葉系細胞の特性を比較することにより、なぜMFH細胞が多分化能を現すのかを検討した。得られた成績を記載する。 1。 MFHには組織球の特性を現す細胞が混在することから、我々が確立したラットMFH由来のクローン細胞(MT-9)の特性を、ラット組織球性肉腫由来の培養細胞(HS-P)のそれと、in vitroの実験系を用いて比較した。その結果、HS-P細胞は、マクロファージの特性であるTNF-αを常に産生し、その発現はリポポリサッカライド(LPS)の添加により増強されたが、一方、MT-9細胞は、TNF-αの発現が低く、LPS添加によりその発現の増強はなかった。また、HS-Pは、ラットのマクロファージ系のマーカー抗体(ED1,ED2,OX6)に陽性の細胞数がLPS添加により増加したが、MT-9ではそのような変化はなかった。これらの成績より、MFH構成細胞に含まれる組織球様細胞は、真のマクロファージとは性格が異なることが示された。 2。 さらに、MFHには、α-平滑筋アクチン抗体(SMA)陽性の筋線維芽細胞が含まれるとされるが、その陽性細胞の発現をLPSを添加することにより、HS-P細胞と比較した。その結果、HS-P細胞ではSMA陽性細胞がLPS添加により増加したが、MT-9ではその陽性細胞の出現に変化はなかった。この所見は、MT-9細胞の筋線維芽細胞様の性格は、周囲環境に影響されることのない、固有の特性であることが推測された。 3。 MFH細胞の特性をより明らかにするために、ラットの線維肉腫由来の培養細胞(SS-A3-1)を確立し、その特性をMT-9と比較したが、SS-A3-1においても、SMA陽性の筋線維芽細胞が存在していることが示された。この結果より、MFHに存在する筋線維芽細胞は、線維芽細胞の一亜型であることが示された。 4。 我々はラットMFH由来のモノクローナル抗体(A3,B9)の確立に成功しているので、今後これら抗体を用いて、MFHの特性、さらに間葉系細胞の分化様式を明らかにする予定である。
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