研究概要 |
Babesia ovata渡島株および奥尻株をウシ赤血球置き換えSCIDマウスに感染させ高寄生率の感染赤血球(寄生率40%以上)を作製し、顕微鏡下で一個の赤血球を採取し、これをウシ赤血球置き換えSCIDマウスに感染・増殖させる方法により複数のB.oata原虫クローンをはじめて樹立することができた。同様の方法で、原虫培養ができないためこれまで不可能と思われてきた小型ピロプラズマ(Theileria sergenti)のクローニングにも成功した。ランダムプライマーを用いたRAPD-PCRを試みた結果、原虫株あるいは原虫クローンを区別できるようないくつかのプライマーセットを設定することに成功したが、PCBの条件によっては区別の難しい非特異バンドが見られ、また、PCR増幅産物はサザンブロット用のプローブとして用いるには不適当である(多数のバンドが反応し交差反応もある)などの欠点があった。一方、B.ovata渡島株からMerozoite surface protein P56,Spherical body protein P35,RAP-1,SpS7,EF-2,Actin,β-tubulin,SSUrRNA遺伝子などをクローニングしそれらの塩基配列を決定したが、いくつかの遺伝子は原虫株および原虫クローンを区別するためのサザンブロット用プローブとして使えることが判明した。また、β-tubulin遺伝子には1つのイントロンが見つかったが、その塩基配列は原虫株や原虫クローンによりかなり異なり、これもマーカーとして使えることが判った。パルスフィールド電気泳動による染色体の分離については、完全長の染色体を得ることが困難な上に電気泳動条件の設定が難しく、各染色体を明瞭なバンドとして観察できるまでには未だ至っていない。一方、効率的なダニ媒介実験系の確立をめざして、B.ovataを感染させたウシ赤血球置き換えSCIDマウスにフタトゲチマダニの成ダニを吸血させ産卵させることに成功したが、生まれた次世代の幼ダニから赤血球置き換えマウスへの原虫伝播には成功しなかった。しかし、T.sergentiを感染させた赤血球置き換えマウスでは、マウスからダニへ、そして、このダニからウシへの原生伝播を成功させることができた。
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