本研究計画は、我々が下垂体前葉での発現を発見した新規のカルシウムーリン脂質結合タンパク質、アネキシン5の下垂体ホルモン分泌とそのシグナル伝達機序を検討するものである。本年度は、プロラクチンとLH分泌に対するアネキシン5の影響を中心に検討した。下垂体前葉細胞の初代培養系を用いて組換えアネキシン5のプロラクチンとLH放出に対する影響を観察した。 まず、バキュロウイルス発現系で作製した組換えラットアネキシン5を精製する方法を開発した。 アネキシン5は、カルシウムイオン依存的にリン脂質に結合する。そこで、この性質を利用して生体組織(卵巣)から調節した膜分画を用いてアフィニティ精製を行った。即ち、組換えアネキシン5を含む昆虫細胞培養液を膜分画と混和し、カルシウム加緩衝液でこれを洗浄後、EDTAを含む緩衝液で溶出した。次いでこれを逆相カラムを接続したHPLCで分画することで、電気泳動で1本のバンドに観察されるまでに精製した。精製組換えアネキシン5を培養液に添加し、下垂体細胞のプロラクチンとLH放出に与える影響を観察した。ホルモンは、ユーロピウム標識ホルモンを用いた時間分解免疫測定法で測定した。組換えアネキシン5(1μg/ml)は、プロラクチン放出を有意に抑制した。特に、プロラクチン放出因子である甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)負荷時にその効果は顕著だった。培養液に抗アネキシン5血清を添加することでプロラクチン放出は促進され、常態でアネキシン5がプロラクチン放出に抑制的に作用していることが示唆された。一方、LH放出は同濃度のアネキシン5の添加によって著しく促進された。アネキシン5は、LH放出因子(GnRH)のLH放出促進作用も促進した。本年度の成果は以上のごとくで、下垂体前葉局所におけるアネキシン5を介するLH、プロラクチンの分泌調節機序の存在が示唆された。
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