本研究計画は、カルシウム-リン脂質結合タンパク質、アネキシンVが、下垂体前葉細胞における新規のシグナル伝達因子である可能性を明らかにしようとするものである。研究は、2年度にわたって実施された。まず、バキュロウイルス発現系でラットのアネキシンVを合成し、リン脂質への親和性と逆相カラムを組み合わせた精製法を確立した。ラット下垂体前葉細胞の初代培養系を実験系とし、アネキシンVがプロラクチン放出を抑制すること、黄体形成ホルモン(LH)放出を著しく促進することを発見した。既に我々は、アネキシンVがLH産生細胞(ゴナドトロフ)に特に多量に存在することを確かめており、アネキシンVがゴナドトロフにおけるホルモン分泌の調節因子である可能性が示唆された。そこで次に、アネキシンVのゴナドトロピンサブユニット合成に対する影響を検討した。RT-PCR法を用いて、アネキシンV投与後のLHβサブユニットmRNA量を測定することで、アネキシンVのLH合成促進作用が明らかになった。アネキシンVがゴナドトロフで生産されることは、ゴナドトロフの株化細胞であるαT3-1細胞が、アネキシンVmRNAを有することから推定された。一方、アネキシンVのプロラクチン放出抑制作用は、培養系に抗アネキシンVを添加することで、プロラクチン放出の促進されることでも確かめられた。更に、この作用はアネキシンVのプロスタグランジン産生抑制作用に依ることが明らかとなった。従って、本研究の結果から、まずアネキシンVがゴナドトロフで生産され、LH分泌(合成と放出)を促進すると同時にプロラクチン産生細胞に作用してプロラクチン放出を抑制することが示唆された。アネキシンVが、下垂体前葉ゴナドトロフにおいてシグナル伝達因子として働くばかりでなく、パラクリン因子としても作用する新しい機能分子であることが推察された。
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