癌化学療法であるドキソルビシン等のアントラサイクリン系薬物は心臓において抗コリン作用が報告されている。しかし、その背景にある電気生理学的変化に及ぼす影響についての検討は行われていなかった。そこで今回、ドキソルビシンの急性処置を中心に、細胞電気生理学的検討を行ない、ドキソルビシンの抗コリン作用を証明し、作用点を明らかにすることにした。摘出モルモット心房筋において記録できる活動電位はカルバコールあるいはアデノシンの処置で短縮した。カルバコールによる活動電位の短縮に対して、ドキソルビシン(10-100μM、灌流処置)は濃度依存的な拮抗を示した。しかし、アデノシンのによる活動電位の短縮に対する拮抗はわずかであった。コラ-ゲナーゼで単離したモルモット心房筋細胞においてパッチクランプ法を用いてwhole cell clamp modeで膜電流を記録し、細胞外よりカルバコールあるいはアデノシンを与えることでアセチルコリン感受性カリウム(K_<ACh>)チャネル電流を活性化した。このカルバコール(1μM)誘発K_<ACh>チャネル電流に対してドキソルビシン(1-100μM)は濃度依存的な抑制を示した。しかし、アデノシン(10μM)誘発K_<ACh>チャネル電流に対してドキソルビシン(100μM)は影響を与えなかった。さらに、GTPγS(100μM)の細胞内処置によりG蛋白を直接刺激することで活性化したK_<ACh>チャネル電流に対し、ドキソルビシン(100μM)は影響しなかった。これらの結果から、ドキソルビシンの急性処置で心臓において発現する抗コリン作用は、主にムスカリンM2受容体レベルにおける相互作用で発揮されるものと考えられる。
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