アントラサイクリン系癌化学療法薬のドキソルビシンは心臓において抗コリン作用が報告されている。この抗コリン作用がドキソルビシンに特異なものであるかを構造の異なる5化合物(アクチノマイシンD、シクロフォスファミド、6-メルカプトプリン、5-フルオロウラシル、ミトキサントロン各100μM)と共に細胞電気生理学的手法で検討した。単離モルモット心房筋細胞においてパッチクランプ法でカルバコール誘発アセチルコリン感受性カリウム(K_<ACh>)チャネル電流を記録した。 ドキソルビシンとミトキサントロンがこのK_<ACh>チャネル電流を抑制したが、他の薬物は抑制しなかった。両薬物はアデノシン誘発K_<ACh>チャネル電流を抑制せず、心房筋活動電位のアデノシンによる短縮に対する拮抗もわずかであった。更に、GTP_γS活性化K_<ACh>チャネル電流に対しドキソルビシンは影響しなかった。以上から、ドキソルビシンとミトキサントロンの抗コリン作用は、主にムスカリンM2受容体レベルで発現すると推定した。ドキソルビシンの抗コリン作用が受容体サブタイプ特異的であるか否かを、心房および腸管のカルバコールに対する機械的反応を指標に検討した。両標本でドキソルビシンの抗コリン作用に差はなく、受容体サブタイプ特異的は見い出せなかった。ドキソルビシンのより詳細な作用点を探るため、慢性処置の影響をラット心で検討した。ドキンソルビシン慢性処置で心房の発生張力は減少し、カルバコールに対する反応性も低下傾向であった。この原因を受容体に共役するG蛋白質に求め、SDS-PAGE・ウエスタンブロッティングでG蛋白質の変化を観察したが、G蛋白質の量的変化は認められなかった。 以上の結果から、癌化学療法薬の心臓における抗コリン作用はドキソルビシン類似の一部の薬物に見られ、その作用点はムスカリン受容体レベルにあるアトロピン様のものと推察される。
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