研究概要 |
獣医臨床における自動分析機器使用を前提とした生化学検査の再評価項目として、血清アルカリフォスファターゼ(ALP)アイソザイムとアデノシンデアミナーゼ(ADA)について検討し、犬や乳牛の肝臓や腫瘍疾患における病態診断の精度が向上した。 犬の血清ALPアイソザイム分画をレバミゾール活性阻害法によりコルチコステロイド誘発性アイソザイム(CALP)、レクチン沈殿法により骨性アイソザイム(BALP)を定量することにより、肝性アイソザイム(LALP)も計算で求めて、自動分析機器による,ALPアイソザイム分画定量法を確立した。ステロイド長期投与犬におけるLALPとCALPの活性変動と肝臓の組織病理学的変化との関係では、肝細胞の空胞変性が軽度の場合はLALP、重度の場合にはLALPとCALPの活性上昇の関与が明らかとなった。 健康乳牛の血清ADA平均値は5.4IU/lであった。また肉眼的肝臓病変を認めた乳牛の肝臓片と血清とを採取し、肝組織所見とADA値との関連性について検討した。肝組織学的所見を炎症性細胞浸潤の程度で分類し血清ADA活性値を比較したところ、炎症性細胞浸潤の程度が重度である個体ほど高ADA活性を示した。乳牛ではADA特有の病態変動が観察され、肝臓病変の質的な診断意義が示唆された。 健康犬の血中活性の平均値は血清で4.46IU/l、血漿で4.99IU/lであり有意差は認められなかったが、検体の保存条件による変動が大きく、犬の血中ADAは他の動物に較べて非常に不安定であることが示唆された。腫瘍性疾患の血漿ADD活性値はリンパ腫、白血病、肝腫瘍、髄膜腫などの症例で治療開始前のADA活性に上昇が認められ、化学療法開始後は低下する傾向を示した。1年以上寛解が得られているリンパ腫、肺転移腫瘍、腹腔内腫瘍、肥満細胞腫などでは正常範囲内であり、ADAはリンパ系腫瘍の治療経過を観察する上で、病態の指標となりうることが示唆された。
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