イヌの全身の肥満細胞の分布を組織学的に検索した。肥満細胞は全身の臓器に観察され、得に腸管粘膜では1平方mmあたり800〜1000個の肥満細胞がみられた。正常動物の消化管粘膜にこれほど多くの肥満細胞が観察された報告はみあたらず、イヌは他の動物に比較して肥満細胞の豊富な動物であるといえる。イヌでは他の動物に比較して肥満細胞腫の発生が多いが、肥満細胞の絶対数が多いことと何らかの関連がある可能性が考えられる。また肝臓にも多くの肥満細胞の分布が見られたが、これもマウス、ラット、ウサギなどの実験動物やヒトにおける分布と明らかに異なっている。これらの肥満細胞の性状を組織化学的に検討したところ、プロテオグリカンの染色性に及ぼすホルマリンや電解質濃度の影響の度合いから、消化管粘膜に分布する肥満細胞のなかにも多少の異同が見られたものの、舌や皮膚の肥満細胞とは相当の差があり、他の動物と同様に結合組織型と粘膜型の大きな区分はあるものと考えられる。 またそれらの肥満細胞におけるプロテアーゼの分布をみるために、特異基質を用いてin situで酵素活性を調べたところ、全ての肥満細胞でトリプターゼ、キマ-ゼいずれの活性も認められた。 現在、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて、消化管粘膜の肥満細胞からのキマ-ゼ及びトリプターゼの分離精製を試みているが現時点では収量が少なく酵素の特異性を検討するまでに至っていない。
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