耐熱性溶血毒(TDH)産生性腸炎ビブリオがアマオブネガイ科腹足類の消化管に定着しうる汽水域の地理的条件を解析した。南西諸島から静岡県に至る河川でアマオブネガイ科腹足類の分布調査を行い、この内の14河川で腹足類を採集した。南西諸島の多くの河川で腹足類の分布を確認したが、汽水域の短い河川や腹足類の生息数が少ない河川が多く、TDH産生菌の分布しうる汽水域の環境条件を満たしていないと判断した。比較的個体数の多い4河川で腹足頚を採集した。一方、四国地方で愛媛県を中心に1997年8月に腸炎ビブリオ食中毒が多発したとの情報を得たことから、四国地方西部及び静岡県の浜名湖の北岸地域の河川でアマオブネガイ科腹足類を採集し、TDH産生菌の検出を試みた。この内、愛媛県の3河川と浜名湖北岸の2河川でイシマキガイ、愛媛県と高知県の各1河川でカノコガイを採集した。採集した貝は実験室に持ち帰り、消化管を摘出して乳剤にし、アルカリペプトン水を用いた最確数法とPCR法によるTDH産生菌の検出を試みた。その結果、愛媛県の僧都川のカノコガイから19/g、僧都川のイシマキガイから4/g、加茂川のイシマキガイから600/gのTDH産生菌を検出した。南西諸島の河川とと浜名湖北岸の都筑大谷川と都田川の検体からはTDH産生菌は検出されなかった。これまでに調査した河川の汽水域の内、TDH産生菌の検出された河川はアマオブネガイ科腹足類の稚貝が高密度に分布していること、水底に有機物濃度の高い泥が厚く堆積していること、干潮時に低塩分濃度の塩水が残留していることが共通していることが明らかになった。
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