抗癌剤ジノスタチン・スチマラマー(ZS)をラットの単回静脈投与し、糸球体の荒廃過程を観察し、以下の知見を得た。1)ZS誘発腎糸球体障害では早期に内皮細胞腫大、内皮下腔の拡大、メサンギウム(M)の水腫性拡大が起こる。2)トレーサーを用いた実験により糸球体障害初期より血中の高分子がM流路に過剰に流入し、その後の細胞外基質蓄積、硬化といった不可逆的変化に先行する事が明らかになった。3)ZS誘発腎糸球体障害では、早期にアルブミンを主体とする蛋白質が発現し、これは糸球体基底膜の陰性荷電の減少が原因と考えられ、糸球体基底膜の細胞外基質の一つであるヘパラン硫酸プロテオグリカンの質的、量的変化が示唆された。4)ZS誘発ラット腎糸球体障害ではM細胞に内皮増殖因子の発現が増加した。5)ZS誘発ラット腎糸球体障害ではメサンギウムの浮腫とmesangiolysisが見られると同時、糸球体内にED-1陽性細胞が浸潤し、さらにM細胞に形質転換が認められ、また、これらに続いて、一部の糸球体にIV型コラーゲンの増加、III型コラーゲンの形成があり、投与20〜25週後の腎臓では、IV型コラーゲンの増加のため硬化した糸球体や、III型コラーゲンの出現を伴う糸球体荒廃像が認められた。以上から、本モデルではメサンギウムの崩壊と共に単球浸潤とM細胞の形質転換が起り、糸球体内での固有細胞と単球間のサイトカインネットワークを介し、IV型やIII型コラーゲンなどの細胞外基質が蓄積することが示唆された。6)ZS誘発ラット腎糸球体障害におけるIL-1bete、IL-6およびTGF-bete動態を免疫組織学的、分子病理学的に検討したところ、本モデルにおいては、障害初期に糸球体に単球/マクロファージ系細胞が浸潤し、それら浸潤細胞及び糸球体細胞においてIL-1beta、IL-6等の炎症生サイトカインの分泌、それに引き続きM細胞の増殖、形質転換がおこり、細胞外基質の増加が誘導されると考えられた。また、TGF-beta1およびLTBP(Latent TGF-beta binding protein)の遺伝子発現については対照ラットと差を見いだすには至らなかったが、免疫組織学的にTGF-beta isoforms(1〜3)の発現及び局在のパターンが病期により異なり、本モデルの特徴を示していると考えられた。
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