研究概要 |
今回精製に成功したダイズ種子PNGase(PNGase-GM)は,均一精製されたPNGaseとしては4番目の酵素であり,植物細胞由来の酵素としては2番目のものであった。PNGase-GMの分子量は,SDS-PAGEでは93kDa(還元剤存在下では94kDa),ゲルろ過では90kDaと算出され,PNGase-GMはア-モンド種子PNGase(PNGase-A;M.W.=68kDa)とは分子量的に異なる。PNGase-GMはpH5.0付近に至適pHが存在し,PNGase-Aと同様に酸性領域で強いアミダーゼ活性を示した。その他現在までに部分精製されている植物PNGaseの至適pHはいずれも酸性領域にあり,微生物(PNGase-F)及び動物細胞由来(L-929PNGase)の酵素が中性〜微アルカリ性領域に至適pHを有するのと対照的である。また,ダイズ種子エンド-b-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-GM)の至適pH(pH6.5)と比べると,PNGase-GMの至適pHがより酸性領域側にあることから,これら2種N-グリカン遊離酵素は細胞内局在性を異にする可能性がある。即ち,この2種のN-グリカン遊離酵素は植物細胞内での糖蛋白質代謝において,それぞれ特異的な機能を担っていることが考えられる。次に,PNGase-GMの基質特性を解析したところ,PNGase-A同様,ハイマンノース型,ハイブリッド型,シアル酸含有複合型,植物複合型糖鎖を有する糖ペプチドいずれにも作用し,アミダーゼ活性により連鎖を遊離させた。しかしながら,PNGase-Aがシアル酸含有複合型糖ペプチドに対して最も効率良く作用することが知られているのに対して、PNGase-GMはハイマンノース型糖ペプチドに対して最も高い活性を示し,シアル酸含有糖ペプチドに対しては5%以下の相対活性しか示さなかった。この事実は,PNGase-GMがPNGase-Aとは基質特性を異にする新規PNGaseであることを示唆するものであり,本酵素が「糖鎖工学」,「糖鎖生物学」研究における有用な制限酵素と成りうることが期待できる。
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