膜タンパク質に関する本年度研究成果の概要は次の通りである。 (1) 酵母 Kluyveromyces laclisのβ-galactosidase--反応特性の解析と新規糖鎖・配糖体の合成: HPLC技法を駆使して分析した結果、本酵素はアセトニトリル存在下で強い転移作用を触媒することを見出した。まず、乳糖を基質とする二糖と三糖の生成を確認し、糖鎖一次構造の解析を行った。次に、基質乳糖にグリセロールまたは鎖長の異なるアルコール類(n=4〜10)を共存させて、転移生成物として配糖体(ガラクトシル誘導体類)を得た。隣接するジオール類への転移作用が高い効率であったことから、膜構成糖脂質との関係が示唆された。酵母細胞における本酵素の所在と生命機能については未だ充分に理解されておらず、その解明に糸口を与えるものと期待された。 (2) ウシ脳のβ-glucocerebrosidase--採取、精製、可溶化と固定化、分子的及び反応特性の解析:細胞膜より得たコール酸ナトリウム溶性画分(S)をデシルセファロースに吸着させて固定化画分(I)を得た。SとIの両画分について、分子量、最適反応、阻害特性及び速度論量を解析した結果、有用な速度論的特性が固定化に依って引き出され、医療、医薬面への有効活用が期待された。 (3) ウシ舌の味覚受容タンパク質--高度精製法の確立: 味蕾細胞を採集し、昨年度と同様の操作法を用いて受容タンパク質を採取、ギムネマ酸アフィニティカラム精製法の改良と工夫を繰り返し行った結果、シクロアミロースによる溶出に依って純度の高い受容タンパク質の精製に成功した。純化試料を用いて、分子量、分子構築、反応特性の解析を行った。 (4) 硫黄酸化菌 Thiobacillus thiooxidansの亜硫酸酸化酵素--培養、採取と精製: 膜酵素であることと環境保全の両観点から本酵素に注目した。菌体の大量培養を行って、細胞膜から酵素を可溶化し、3種のカラムクロマトグラフィーを行って、単一標品を得る事に成功した。反応研究の基盤となる触媒活性測定法の確立を図ると共に、可溶化条件を工夫して酵素の結晶化に取り組んだ。 (5) 淡水魚(タイリクバラタナゴ)の生殖細胞--捕獲、飼育、採取: 受精機構の研究に最適な対象として魚類に着目した。滋賀県琵琶湖博物館魚類研究員の指導を受けて、飼育に習熟し生殖細胞の採取と顕微鏡下における細胞活動観察の技法をほぼ確立した。
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