犬における自律神経の解剖学的ならびに電気生理学的検討およびヒト解剖体の自律神経剖出所見の検討結果から、骨盤部を制御する自律神経の末梢交感神経遠心路はこれまで成書によって述べられた胸腰髄という概念とは明らかに異なり、腰髄にその中枢が限局しており、それからの末梢神経路は以下のようである。 1)射精の交感神経経路(精官内の精子輸送、前立腺液の分泌ならびに内尿道口の閉鎖)主経路:(1)腰髄→腰部白交通枝→腰部交感神経幹神経節→腰内臓神経→下腸間膜動脈神経節(ヒトは上下腹神経叢)→下腹神経→骨盤神経=→前立線神経叢→膀胱頸部、前立腺または左右の精官。なお、精路支配は下腸間膜動脈神経節(ヒトは上下腹神経叢)ならびに前立腺神経叢の2ヶ所で左右の交叉性現象が見られ、片側の腰内臓神経の両側の精路の2重支配が存在する。代償経路:(2)腰部交感神経幹神経節→仙骨部交感神経幹→骨盤神経(ヒトの半数では仙骨内臓神経に相当)→骨盤神経叢→前立腺神経叢→膀胱頸部、前立腺または左右の精官。さらに精路に関しては(3)腰部交感神経幹神経節→精巣動脈神経叢→精官。下腹神経切断後の逆行性射精は上記の代償路が作用したものであり、(2)の経路の骨盤神経に含まれる交感神経線維により、精子の後部尿道への移動は起こるが、内尿道口の閉鎖は完全に代償できないため、膀胱内に精子が逆流した現象と考えられる。さらに実験結果から胸髄→胸部交感神経幹神経節→大内臓神経→副腎髄質のカテコールアミンの分泌という胸髄を中枢とする交感神経-内分泌系の関与がからんでおり、さらなる検討が必要とされる。
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