犬の自律神経の解剖学的ならびに電気生理学的検討、ならびヒトならびに動物の解剖体による自律神経剖出所見の検討し以下の結果を得た。1)骨盤部を制御する交感神経の脊髄中枢はこれまで成書に述べられた胸腰髄ではなく、腰髄であるという新知見を得た。犬はL1-L4の範囲で、L2-L4の3髄節が主根、さらに、これらの所見をヒト解剖体の剖出所見に反映させるとヒトはL1-L3の3腰髄が脊髄中枢と考えられた。2)交感神経幹神経節の中枢は犬は第3-5腰部交感神経幹神経節で、脊髄レベルとは1分節の下方のずれが認められた。ヒト55体の検討では第2と第3幹神経節のいずれかまたは両方が関与するのはl15/l18(97.5%)を占め、この両幹神経節がヒトで骨盤内臓器の中枢であると考えられた。3)末梢神経経路は腰部交感神経幹-下腹神経-骨盤神経叢を介する1つの主経路と(1)腰部交感神経幹-骨盤神経ならびに(2)腰部交感神経幹-精巣神経を介する2つの副経路が存在し、特に(1)の副経路は下腹神経が切断された場合の代償路として存在する。 4)下部胸髄は大内臓神経-副腎を介する神経-ホルモン経路、上部腰髄は腰内臓神経-下腹神経を介する神経のみの骨盤内臓器を支配する2重支配様式が存在し、脊髄からの異なる2経路の分節性支配が考えられた。 5)下腸間膜動脈神経節(ヒトは上下腹神経叢)で左右の交叉性支配が見られ、片側の腰内臓神経が両側の臓器を支配し、この交叉性支配は下腹神経切断・縫合した慢性犬においても同様であった。6)骨盤内臓を制御する自律神経系経路に関して四足動物からヒトに進化するにつれて神経叢ならびに制御神経について形態分化が観察され、動物の下腸間膜(動脈)神経叢(節)から機能的に分化し、ヒトの上下腹神経叢(骨盤内臓を支配)と下腸間膜動脈神経叢(大腸下部を支配)が形成された。この事から、従来の教科書に描かれている自律神経の機能模式図がイヌやネコの自律神経模式図と見なされ、今後、自験例がヒトの新たな自律神経模式図となり得るという重要な結論が得られた。
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