肝臓の門は、従来のいう「肝門部」hepatic hilum或いはporta hepatisと本研究で初めて概念を導入した「肝反門部」hepatic counterhilum或いはantiporta hepatisとの二つの構造があり、前者が門脈・肝動脈・胆管・リンパ管・神経が集中的に通過する箇所であるのに対し、後者が、肝静脈の輸出口を提供し、そのうえ、動脈枝やリンパ管も密集して分布する箇所である。 肝門部の組織形成はブタ胎児において門脈が先だって出現し原始的な胆管も認められるが、胎長11.7cmで肝動脈が進入してくる頃とほぼ同時期に典型的な胆管が発達しする。リンパ管は無動脈肝で見られないが、胆管周囲に成長する動脈叢に隣接して出現する。無髄神経が見い出されたのは胎長20cmであった。 成獣肝門部周囲の肝小葉が大型のものが多く、肝反門部では小葉が萎縮傾向を示す。動脈枝が極めて数多く、胆管も良く発達し間質とリンパ管も目立つ。大きな門脈域(グリソン鞘)では門脈枝は輪状筋が多重に増殖し血管腔も縮んでいるが、小さな門脈域では単核細胞浸潤によって門脈枝が閉塞するか、又は消失している。門脈域辺縁に風船状の空洞が時々見られる。独立走行をとる分かれ動脈 isolated artery が肝静脈壁を侵入し縦層筋を発達させる。門脈血の減少と肝静脈壁内緊張による圧迫が小葉萎縮の原因となることが示唆される。肝反門部が局所的な門脈圧亢進と考えることができる。 病的変容に関して実験的門脈圧亢進状態を試みた。エンドセリン-1を灌流したラット肝では門脈血管が収縮し、肝が縮み、門脈圧が急上昇した。大型門脈壁は不均一な1-2層の平滑筋をもち、収縮に反応しない。径400μm以下のものでは漸増性的に収縮像が見られ、門脈前終枝の遠位分節(40-80μm)に最も強く4-6個の内皮細胞核で内腔が塞がってしまう。発達不良の門脈終枝は勿論、進入血管と類洞も収縮しない。門脈収縮に伴い限界板が牽引され、門脈域間質が著しく浮腫状になる。付近に類洞周隙が大きく押し広げられ、健全な類洞がその中を浮いている空洞形成がみられる。空洞化は特発性門脈圧亢進症に特徴的とされる異常血管に類似している。 慢性病変ではメコン住血吸虫で感染したマウス肝を観察した。肝は腫大し、肝門部は大型門脈腔内に多数の虫体が入っているが、間質の変化は比較的少ない。病変の大半は末梢門脈枝に30-40μmの虫卵が閉塞を起こし、リンパ球浸潤、肝細胞変性、肉芽腫形成といった病巣(200-400μm)であった。リンパ球浸潤によって肝細胞が破壊いされるが、肝門部付近は破壊像が目立たない。
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