研究概要 |
横隔膜や胸膜のリンパ管系は腹水を伴う疾患や持続形態腹膜透析の際に合併する胸水の発生機構と深く関係しており,また癌転移や炎症の波及とも深く関わっている.我々は横隔膜と胸膜のリンパ管の分布,発生および機能,胸膜腔および腹腔とリンパ管を直接連絡するリンパ管小孔の分布,微細構造および発生について以下の研究実績を得た. 1)ラットの肋骨胸膜において,胸膜腔とリンパ管を直接連絡するリンパ管小孔の微細構造を明らかにし,さらに小孔が特定の部位に集族して存在することを明らかにした.また,小孔の大きさは12.9±10.3mum^2(平均±SD)で,肋骨胸膜全体で約1mm^2に及び,胸水吸収路として重要な役割を果たしている事を明らかにした(Wang et al.,1997). 2)ラットの腹腔に墨汁等の色素を注入し,横隔膜の排導リンパ管の一つである傍胸骨リンパ幹を結紮すると,腹腔内に注入した墨汁が傍胸骨リンパ幹から間質に漏出し,胸膜腔に達することを明らかにした.すなわち,横隔膜の排導リンパ管の閉塞あるいは排導能力以上の腹水が貯留した時,排導リンパ管からリンパが漏出し胸水を引き起こすことを明らかにした(Ohtani et al.,1997). 3)ラットの横隔膜を胎児期から成体に至るまで経時的に,酵素組織化学,および電子顕微鏡で調べ,リンパ管およびリンパ管小孔の発生過程を明らかにした.胎生16日には,横隔膜辺縁部の胸膜下にリンパ管が出現し,中心に向かって発芽によって延び,胸膜下と腹膜下にリンパ管網を形成すること,および腹膜下のリンパ管から中皮細胞に向かって突起が生じ,生後に中皮細胞間の孔と連絡して,リンパ管小孔が形成されることなどを明らかにした(Shao et al.,1998). 4)ラットの肋骨胸膜におけるリンパ管小孔の形成過程についても論文に纏めているところである. 5)サルの横隔膜におけるリンパ管小孔の分布,およびラットにおいて腹水の量によりリンパ管小孔の大きさが変化することをチルドSEMを用いて明らかにし,現在論文に纏めているところである. 6)リンパ管の新生機構を解明するために,リンパ管の成長因子であるVEGF-Cに対する抗体を作成し,ラットの胎児におけるVEGF-Cおよびその受容体であるFlt4の発現について研究中である.
|