研究概要 |
氷温貯蔵下における生体組織の微細形態の変化を調べるため,本年度は角膜移植への応用を考えて,ラットの角膜の氷温貯蔵を行い,微細形態の変化について検討を行った.角膜移植に用いられる角膜は,現在4℃で保存されている.我々は,さらに優れた保存条件を求めて,0℃でラット角膜を保存することを試み,従来の4℃で保存した角膜との微細形態学的相違について,走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡を用いて検討した.ラットの全眼球および強角膜片を切り出し,眼球保存液として一般に用いられているEP・IIを用いて4℃と0℃で1,2,7日間にわたって氷温庫に保存した後,常法にしたがって試料を作製し,角膜内皮細胞の微細形態の変化を観察した.全眼球保存群と強角膜保存群を比較すると,いずれの条件においても全眼球保存群のほうが微細形態の保存に優れていた.これはE・PIIがもともと全眼球保存用として開発されたものなので,当然の結果かもしれない.全眼球保存群で4℃で保存したものでは,保存期間が長くなるにつれて,細胞表面が凹凸不整になり,細胞の脱落や細胞膜の障害が認められた.これに対し,全眼球保存群で0℃で保存したものでは細胞膜の障害は軽度であった.0℃で7日間保存したものでは,細胞表面に長い微絨毛様の突起が出現したが,細胞膜は良く保存されており,細胞がまだ活性状態にあることが判明した.今回の研究は,眼球を氷温下で保存することにより,保存期間が延長できることを示したものであり,献眼不足を補う一方法となるものと考えられる.
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