下垂体隆起部は系統発生的に全ての動物に存在するため、不可欠な器官であり重要な働きをしていると考えられる。しかし隆起部細胞が何を分泌し、どのような機能を有しているのか分かっていない。哺乳動物で隆起部細胞は色素嫌性細胞と呼ばれるように、小型の分泌顆粒を少量含むだけであり、形態的変化を追及することが困難である。一方鳥類では多くの分泌顆粒を含んでおり、典型的なホルモン分泌細胞としての形態的特徴を示す。ニワトリ隆起部を黄体化ホルモン(LH)抗体とクロモグラニン(chr)抗体を用いて免疫染色し、全ての分泌顆粒が両抗体で強く染色されることを見出した。免疫金法を用いての免疫電顕でLHとChrの局在を調べると、全ての分泌顆粒にLHの反応を示す金粒子が沈着した。同様にChrの反応も分泌顆粒上に存在し、特に大きな分泌顆粒の上に多く見られた。両抗血清を用い二重染色を行い、同じ分泌顆粒上にLHとChrが共存することを確かめた。隆起部抽出物をLH抗体を用い免疫プロットを行うと、前葉と同じくLHαとβ鎖が存在した。またChr抗体でChrバンドが得られた。しかし性腺除去後、前葉LH細胞とは異なり変化を示さなかった。α鎖はLH、FSHおよびTSHに共通であるが、α鎖cDNAプローブを用い、隆起部から抽出した全RNAのノーザンブロットを行うと前葉と同じく隆起部に約1000bpのα鎖mRNAのバンドを得た。またα鎖cRNAプローブを用いin situハイブリダイゼーションを行うと隆起部全領域に、α鎖mRNAの反応が強く発現した。このように隆起部細胞は糖蛋白α鎖を合成していることがわかった。次に固体発生を調べると、胎生8日目に前葉の続きとして、正中隆起に接して存在するα鎖mRNAを強く発現する細胞集団として隆起部原基が同定された。この隆起部原基はLHおよびChr抗体に強く染まった。その後隆起部原基は正中隆起に沿って伸張し、胎生14日目で視交叉の部位まで到達し、成体と同じく正中隆起を細長く包んで存在するようになった。松果体より分泌されるメラトニンのリセプターは前葉でなく、隆起部に高濃度に存在することが知られている。24時間光刺激または22時間恒暗飼育を行い日照リズムの変動に伴う隆起部細胞の変化を調べた。明飼育では、隆起部細胞に大型の分泌顆粒が蓄積し、細胞は不活性な状態を呈した。一方暗飼育では、ミトコンドリアが著しく増加し、小型分泌顆粒が少量存在するだけとなり、細胞は活性な状態を呈した。α鎖cDNAプローブを用いノーザンブロットを行うと、隆起部α鎖mRNAバンドは日照リズムの変化で著しく変動した。隆起部細胞は季節や日照リズムによる性周期の調節に関与すると考えられるが、α鎖のみを合成しているのか、隆起部に特異的なβ鎖が存在するのか検討が必要である。
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