マウス大腸癌由来の株細胞(colon26)を脾臓に注入して惹起した肝腫瘍を癌転移のモデル系として組織化学的検討を行うと、ガン細胞はしばしば血小板の凝集を伴って肝内血管壁に接着し、またECAレクチン(Erythrina crystagalli agglutinin)に強く染色される傾向を示した。ECA陽性糖蛋白質は、分子量130kDa糖蛋白を主成分とする複数の糖蛋白質であり、この成分を添加すると、癌細胞と血小板との接着性は有意に抑制された。そこで癌細胞表面にあるECA陽性糖鎖の性状と、血小板との相互作用について更に検討するために、単層培養したcolon26細胞に、各種複合糖質存在下でPRP(多血小板血漿)を添加し、血小板の接着を計測した。130kDa糖蛋白質の糖鎖は、tunicamycin前処理により消失することから、N-グリコシド型糖鎖であり、かつα2-6シアル酸や、フコース残基を有していることが明らかとなっている。ECA結合糖の主成分とされるラクトサミン糖鎖に、各種のシアル酸やフコースを付加した合成糖鎖を添加して、血小板と癌細胞との接着性を検討すると、フコシルラクトサミン型の糖鎖や分岐型ラクトサミン糖鎖が、血小板と癌細胞との接着を強く阻害することが示された。これらの所見より、ECA陽性のシアリルフコシルラクトサミンを含んだN-グリコシド型糖鎖が、血小板を介した細胞間相互作用に関与していることが考えられる。N末アミノ酸配列の解析結果から、130kDa糖蛋白質はα_5インテグリンと類似しており、抗α_5インテグリン抗体を添加すると、癌細胞と血小板との接着性が有意に阻害されることも明らかとなった。130kDa糖蛋白質と相互作用する血小板側の因子については今後の検討課題であり、インテグリンファミリーによる接着反応に糖鎖がどの様に関与しているかについても注目に値する。
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