正常ICR系マウス胎仔小腸近位部を材料として、絨毛形成の始まる妊娠13日目より15日目にDNA合成を阻害するためにメトトレキサートを投与し、絨毛形成に及ぼす影響について検索した。 まず、BrdUを投与してDNA合成細胞を検索すると、14日目では上皮・間葉組織共に半数程度の細胞が散在して標識され、管腔が伸び出している先端部付近の上皮細胞で標識頻度が僅かに高かった。絨毛の形成が始まると、標識細胞は、陥入部上皮に多く、絨毛の側壁でも散在性に認められた。間葉組織内では、散在性に観察された。 この時期にメトトレキサートを投与すると、胎仔の成長は遅延し、皮膚は菲薄化し皮下に浮腫を生じた。この変化は投与した胎仔の胎齢が若いほど、また投与からの時間が長くなるほど顕著であった。心臓の拍動は弱く、拍動数も減少していたため、臍静脈からの螢光標識ゼラチンの全身還流は困難であった。腸管は正常胎仔に比較して短く、直径も細かった。13日目投与では、ヒダのような絨毛様の構造物が形成されるのみで、上皮が死滅している部位も見られ、間葉細胞も疎であったが、筋層はほぼ正常であった。14日目投与では、一横断面に数個の絨毛が形成されつつあったが、部位によっては大きさがまばらで、中心を越えた長い絨毛が見られることもあった。投与3日後では、内腔が拡大し、壁から数個の短い絨毛が突出している像も見られた。15日目投与では、正常に比較して遅延するものの絨毛の形成状況に顕著な異常は認められなかった。 これらのことから、マウス小腸の絨毛形成の臨界期は妊娠14日目で、この時期にDNA合成が阻害されると、絨毛D発育に多大な影響が生じることが明らかになった。現在、このような変化にさいして血管系の分布がどのように変わるかを解明するために、螢光標識ゼラチン溶液に強心剤を配合し、全身還流を試みている。
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