ニワトリ胚動脈内皮細胞の形態学的研究から、これまでに、細胞の伸張がストレスファイバー(アクチン線維束)の形成誘導の要因の一つであることが分かった。昨年度、ウシ大動脈由来培養内皮細胞とサイトカラシンDを用いて、アクチン細胞骨格の破壊とその後の再生過程を蛍光抗体標識法と電子顕微鏡を用いて観察した結果を報告した。今年度は、サイトカラシンDをふ卵15日目頃のニワトリ胚の尿しょう膜の動脈に注入し、内皮のアクチン線維の分布変化を調べ、培養内皮細胞の場合と比べてみた。その結果、ニワトリ胚の動脈においては、1μg/mlのサイトカラシンD(培養細胞の場合と同濃度)を注入後1時間経ても内皮のストレスファイバーはかなり残り、特に、細胞の両端に達する長いものがよく残る傾向があった。これらの残存ファイバーは両端に発達した接着装置をもち、細胞と細胞外基質との強い結合を支えているものと考えられる。また、このファイバーの分布密度の低下とともに、細胞周辺部に発達したアクチン線維束が現れ、6日目以前の胚にみられるストレスファイバーが少ない動脈内皮細胞とよく似た形態が観察された。これは、ストレスファイバーの減少と細胞間のアドヘレンス結合の拡大が相関関係にあることを示唆しており、興味深い。今回の実験では動脈の上流側を閉鎖して血流を遮断しているにもかかわらず、少なくとも2時間はストレスファイバーが残り、血流がこのファイバー形成に直接関与しているのか否か、再考を促す結果も得られた。 以上の形態学的な結果は、ストレスファイバーの機能や構造の維持が培養条件下と組織細胞内とでは異なる可能性を強く示唆する。今後、ミオシンやalpha-アクチニンなどの分布を調べて、培養細胞でみられた再生途中のストレスファイバーとの比較をする予定でいる。
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