本研究の目的は、マウスの自律神経機能をパワースペクトル解析法により評価する方法を開発し、これを遺伝子欠損マウス(ノックアウトマウス)に適用することである。具体的に、麻酔したマウスの収縮期血圧(SAP)および心電図R-R間隔(R-R)変動より、autoregression法を用いて解析した。 初年度では、αおよびβアドレナリン性受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体を薬理学的に遮断した正常マウスより次の結果を得た。1.マウスのパワースペクトルは低周波成分(LF成分)と高周波成分(HF成分)により構成される。2.SAP変動のLF成分は、交感神経性血管収縮神経の活動を表す。3.R-R間隔変動のLF成分は、心臓交感神経活動を表す。 4.R-R間隔変動のHF成分は、心臓迷走神経の活動を表す。次年度では、、エンドセリン(ET)-1遺伝子欠損マウス、ETB受容体遺伝子欠損マウス、リアノジン3型遺伝子欠損マウスに適用して、次の結果を得た。1.ET-1遺伝子欠損マウス(ヘテロ型)は、野生型に比して約10mmHgの高血圧を示し、SAP変動のLFおよびHF成分がともに増加していた。交感神経活動の亢進が高血圧の原因として示唆された。2.ETB受容体が正常の1/8に欠損しているマウスでは、野生型に比して血圧が約20mmHg高かったが、SAP変動のLFおよびHF成分には差異が見られなかった。血圧の上昇は神経性でなく、末梢血管性であることが示唆された。3.リアノジン3型遺伝子欠損マウスにおいては、野生型に対して心拍数が約5%増加していたが、R-R変動のLFおよびHF成分がともに減少し、心臓迷走神経活動の減少が心拍数の増加をもたらしていることが示唆された。
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