研究概要 |
神経細胞傷害後の再生期においては神経連絡網の変化とともに放出される神経伝達物質や神経伝達物質受容体自体も多種多様な変化をしめす。本研究においては中枢神経系において代表的興奮性伝達物質であるグルタミン酸に対する受容体のうち可塑的変化に重要な関連があるNMDA型受容体および代表的抑制性神経伝達物質であるガンマアミノ酪酸(GABA)受容体の神経細胞傷害後の修復過程における機能的な変化をパッチクランプ法を用いて検討した。成熟動物において延髄迷走神経運動神経細胞に傷害(軸策傷害)をあたえると、傷害された神経細胞では未熟動物と同様に細胞外マグネシウムイオンによるブロックを受けにくいNMDA型受容体応答がふたたび観察された。この現象は軸策傷害12時間後から観察され1-3日目に最も著明となった。傷害後10日目には傷害前と同様な性質まで回復した。逆方向性軸策輸送の阻害剤であるコルヒチンを軸策投与しても起こらなかったため、この作用は末梢からの栄養因子補給停止によるものではなく、神経細胞の傷害に起因していることが示唆された。細胞内プロテインキナーゼCの阻害剤を投与しても細胞外マグネシウムイオンによるブロックは回復しなかった。そのため、傷害後NMDA型受容体構成をサブユニットが変化している可能性が考えられた。そこで傷害前、傷害後3、5、および10日目においてNR2A,2B,2Cおよび2DサブユニットのメッセンジャーRNAを測定した結果、NR2BのメッセンジャーRNAが最も増加していた。これらの結果から、posttrans criptionalな制御が考えられる。一方、傷害を受けた神経細胞はGABAに対し細胞内カルシウムイオン上昇を伴う脱分極応答を示した。これは傷害細胞内クロールイオン上昇によるものであることが判明した。以上から、生体内で傷害を受けた神経細胞はグルタミン酸やGABAによってより興奮されやすい状態にあることが判明した。
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