研究概要 |
酵素処理により得られたモルモット心房筋細胞において,P_2-受容体刺激により増大する遅延整流性カリウム電流(I_K)は,急速活性型(I_<Kr>),緩徐活性型(I_<Ks>)のいずれの成分であるかを,パッチクランプ法による全細胞膜電流記録(whole-cell recording)実験により調べた.心房筋細胞のP_2ー受容体刺激は,細胞灌流液(細胞外液)中に種々の濃度(1-50μM)のATPを添加する事により行った.本研究により以下の点が明らかになった. 1,envelope test コントロール時および細胞外ATP(50μM)存在下において,-40mVの保持電位から種々の長さ(50-2000ms)の脱分極パルス(+40mV)を与え,I_Kのenvelope testを行った.次に,subtractionにより求めた各長さのテストパルス中のATPにより増大したI_K成分について,脱分極パルス中の外向き電流とその末尾電流の大きさの比を求めてみると,パルスの長さに関わらずほぼ一定(約0.4)の値を示した. 2,薬理学的実験 コントロール時において-30mVから+40mVの範囲に500msの脱分極パルスを与えてI_Kを活性化し,続いてI_<Kr>の選択的抑制剤であるE-4031(5μM)の存在下に同様の脱分極パルスを与え,I_KをI_<Kr>(E-4031感受性成分)とI_<Ks>(E-4031抵抗性成分)に分離した.次に,細胞外ATP(1,50μM)投与によりI_Kが増大したところで,同様にE-4031を作用させて,I_KをI_<Kr>とI_<Ks>とに分離し,それぞれの大きさをコントロールと比較すると,I_<Kr>の大きさはほとんど不変でI_<Ks>のみが増大していた. 以上,1および2の実験結果により,P_2-受容体刺激は,緩徐活性型の遅延整流性カリウム電流(I_<Ks>)を選択的に増大させることが明かとなった.
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