研究概要 |
酵素処理により得られたモルモット心房筋ならびに心室筋細胞にパッチクランプ法を適用して全細胞膜電流記録(whole-cell recording)を行い,P_2-受容体刺激による緩徐活性型遅延整流性カリウム電流(I_<K8>)の増大反応に関わる細胞内情報伝達機構について検討を行った.本研究により以下の点が明らかになった. 1. GTP結合蛋白(G蛋白)の関与について 細胞内にG蛋白の機能を阻害するguanosine5'-O-(2-thiodiphosphate)(GDP-βS,1mM)を負荷するとATPによるIK,の増大反応はほとんど消失したため,この反応にG蛋白の関与が示唆された.また,このATPの作用は細胞の百日咳毒素処理によっては影響を受けなかったため,関与するG蛋白は百日咳毒素非感受性のものであると考えられた.なお,G蛋白の関与があることにより,P_2-受容体はG蛋白共役型であるP2Y型であることも示唆された. 2. 蛋白燐酸化反応の関与について (1) 細胞に非水解性ATPアナログであるadenosine5'-O-(3-thiotriphosphate)(ATP-γS,5mM)を負荷するとATPによる増大反応は不可逆的となったため,何らかの蛋白燐酸化反応の関与が示唆された. (2) H-7(10μM)およびH-8(5μM)存在下においてATPの増大作用は影響を受けなかったために,AキナーゼならびにCキナーゼを介する燐酸化反応の関与は否定的であった. (3) genistein(50μM)は部分的にではあるがATPの作用を抑えたが,daidzein(50μM)は効果をおよぼさなかったため,チロシンキナーゼの関与が示唆された. 以上,1および2の実験結果により,ATPはP2Y型受容体を刺激して何らかのチロシンキナーゼを介する蛋白燐酸化反応を引き起こしI_<K8>を増大させることが明らかになった.
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