心臓のメカノエナジェティクスを研究しそのポンプ機能のエネルギー学的効率化を考えることは、病態心の形成過程の解明や病態心の治療の飛躍的進展をはかる上でも重要である。心臓の収縮性は、機械的無負荷状態での収縮に必要な酸素消費(VO_2)と密接に関係する。ところが近年、全心臓標本においては機械的無負荷収縮時のVO_2(左心室一拍あたりの機械的総エネルギーを示す収縮期圧容積面積PVAに依存しないVO_2として求めることが出来る)に残存する架橋運動に要するVO_2が含まれているという報告がある。そのため我々は、より簡便に機械的無負荷収縮時のエネルギー消費の構成について検討するため心筋スライス実験法を考案した。SRCa_<2+>pumpの見かけのエネルギー変換効率は74%と推定されているが、機械的無負荷収縮時と非刺激時のVO_2にSRCa_<2+>pumpによるものが含まれているかどうかを明らかにするため、SRCa_<2+>pump阻害薬のthapsigargin(TG)およびcyclopiazonic acid(CPA)を用いた。TG0.1-1μMおよびCPAの10μMは、各々対照の33%および28-68%までE-C coupling VO_2を減少させた。しかし、basal VO_2は減少させなかった。basal VO_2には、SRCa_<2+>pumpによる酸素消費は検出できなかった。無負荷収縮の大きさは、30℃でスライスの表面面積の減少率を用いて評価するとTG1μMおよびCPAの10μMで63%および81%低下した。これらの結果はラット心筋のE-C couplingでのCa_<2+>handling にSRのCa_<2+>pumpが密接に関わることを示唆した。今後の研究の展開については次の四点を重要課題と考えている。第一は心筋スライスでCa_<2+>cycling VO_2を内周りと外周りのCa_<2+>cyclingに要するそれぞれのVO_2成分に分けることが可能であるか検討すること。第二はエネルギー浪費型のCa_<2+>cyclingに要するVO_2成分の検出を試みること。第三は心筋スライスで架橋運動の増大に要するVO_2の検出をすること。第四点目はラットで見られる高いbasal VO_2の由来を検討すること。
|