研究概要 |
モルモット胃幽門前庭の輪走筋は比較的規則正しい頻度(3-5/分)で現れるslow waveと呼ばれている脱分極電位(30-35mV)を発生する。この頻度は膜電位依存性が弱く,温度依存性が強いので,細胞内代謝系によって制御されている可能性が示唆される。本研究では解糖系代謝の阻害剤の影響を中心にして,自発性活動と解糖系代謝との関連を調べようとするものである。slow waveは外液のglucoseを除いただけ,あるいはglucoseを除いた液にglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenaseを抑制するとされるiodoacetic acid(IAA,300μM)を与えても強い影響は受けない。しかし,IAAで10分間程処理した後にglucoseを与えるとslow waveは強く抑制される。この場合,酸素消費の抑制はみられず,Naイオンを除いたり,低濃度のCoイオンを与えると自発性活動が出現する。また、IAA処理後にglucoseを与えたときの抑制作用は細胞内ATPの減少で活性化されるKイオンチャネルを遮断するとされるglybenclamideで影響を受けないので,細胞内のATP濃度の減少はあっても僅かであり,細胞膜の興奮性はほぼ正常に保たれていると考えられる。以上のような結果から自発性活動が抑制されるのは解糖系代謝が停止することよりも,むしろglyceraldehyde-3-phosphateより上流での中間代謝産物が蓄積するためにslow waveの発生が抑えられる可能性が示唆される。最近、通常の平滑筋細胞とは別の,自発性活動を引き起こしていると考えられる細胞からの電位(40-45mV)を記録することに成功し始めたので,今後この電位の性質ならびにこの電位発生と代謝との関係の分析を進める予定である。
|